この場合の「ヒカリ」「ハルカ」とは、「ゲームの主人公を基にしたオリトレ」です。 便宜上エディットネームを使用しているだけなのであしからず。 それを俗に、『鬼の撹乱』と言うらしい。 ヒカリが風邪をひいた。風邪なんてひきそうになかったから、全員がうろたえ、大騒動になった。 普段鬼のように怖いなんてこと――あるが(たまに鬼神ではないかと思う)、誰彼構わず喧嘩を売ったり買ったりするが (そして全勝するのだからまた恐ろしい)、やっぱりニンゲンだったのだな、とファサンは何となく考えた。 部屋の前に来て、そっとなるべく音を立てないようにドアを開ける。 実は先程一度戻ってきたのだが、寝込んだヒカリの枕元で大騒動していたバカ共をロビーに叩き出し、叱りつけてきたのだ。 部屋に入り、ヒカリもヒカリでよくキレなかったもんだな、と感心した。怒るだけの気力がなかったのか、 それともキレる寸前で自分が叩き出したのか。 後が危険すぎて考えられない後者でないことを切に祈りながら、静かに枕元に近寄ると、額に乗せていたタオルを取る。 洗面器に張った水の中へ音を立てないようにそっと落とし、右手をヒカリの額に当てた。――どうも熱が上がっているようだ。 熱冷ましは最終手段に取っておくとして、さてどうしよう、とファサンは考える。 何せ風邪をひいたニンゲンの看病など、生まれて初めての経験だ。勝手など全く分からない。 とりあえず洗面器の中に落としたタオルを持ち上げ、絞った。極力音を立てないように気を配ったが、それでも小さな水音が連続して立ち、 ヒカリがぼんやりと目を開けた。 「…………」 「わりぃ……起こしたか?」 ファサンの声に反応したらしく、ヒカリが緩慢に首をこちらに向ける。声は出ず、唇だけがファサン、と動いた。 「驚いた。お前でも倒れることがあるんだな」 先程絞ったタオルを額に乗せながら、ファサンは何となく口にする。 前の主人、ハルカはヒカリと何らかの血縁関係があったらしく、彼をヒカリの下へ送った。 そしてファサンはヒカリの下へ送られる際、しつこいくらいにヒカリの体調に注意するように、と言われていた。 普段の様子から別に気にすることでもないとたかを括っていたのだが、まさか風邪をひいてぶっ倒れるとは思いもよらなかった。 一方のヒカリは、ファサンの行動をじっと見ている。 「……なんだ、どうした?」 わずかに首を傾げれば、ヒカリは別に……と呟いた。少しの間を置いて、口を開く。 「……みんな、大分騒いでた、よね……」 「……聞こえてたのか。悪かったな、俺が少し目を離した隙にああなってた」 一つ小さく咳をしたヒカリはやはり別に、と答え、 「みんな動揺してたんでしょ」 言って目を閉じ、息を深々と吐き出した。 「なんか、して欲しいこと、あるか?」 問いに少し黙り込んだヒカリは、 「……――そばにいて」 一瞬目をみはったファサンはほのかに笑みを浮かべ、毛布の中にあったヒカリの指に自身の指を絡めた。 「いいぜ、マスター。あなたがそう望むのなら、俺はその願いをかなえよう」 あなたが喜ぶのなら、俺はそれで満足だから。 |